鳥取地方裁判所 昭和38年(行)5号 判決 1970年3月20日
鳥取県八頭郡智頭町大字大背一、一五三番地
原告
久本林産株式会社
右代表者代表取締役
久本盛繁
右訴訟代理人弁護士
下田三子夫
鳥取市東町二丁目
被告
鳥取税務署長 小林靖典
頭書両事件につき
右指定代理人 山田二郎
同
三宅正行
同
内田一
同
森本湊
右当事者間の頭書事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一、昭和三八年(行)第五号事件関係
(一) 被告が昭和三六年三月三一日付で原告に対しなした更正決定について、
原告の昭和三三事業年度分法人税額のうち所得額を金二三三万〇、七〇〇円として算出した額を超える部分、
原告の昭和三四事業年度分法人税額のうち所得額を金三九六万二、一〇〇円として算出した額を超える部分、
をそれぞれ取消す。
(二) 原告のその余の請求を棄却する。
二、昭和四一年(行ウ)第二号事件関係
被告が昭和四〇年一一月三〇日付で原告に対しなした更正決定について、原告の昭和三五ないし三九事業年度分法人税額のうち所得税を別紙目録二の(二)「申告にかかる所得金額」欄記載の各金額として算出した額(いずれも従前期に加算された受取利息額の減算に伴う未払事業税、価格変動準備金、寄付金の変動をも加算する)を超える部分をそれぞれ取消す。
三、訴訟費用はこれを五分とし、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
(原告)
一、昭和三八年(行)第五号事件
被告が昭和三六年三月三一日付で原告に対し原告の別紙目録一記載の各事業年度分法人税につきなした同目録記載(一)の各更正決定のうち同目録記載(二)の各申告税額及び所得額を越える部分をいずれも取消す。
二、昭和四一年(行ウ)第二号事件
主文第二項同旨。
(被告)
昭和三八年(行)第五号事件及び昭和四一年(行ウ)第二号事件につき、
原告の請求棄却。
第二、 当事者の主張
(原告の請求原因)
(一) 原告は肩書地に本社、鳥取市に分工場、神戸市に出張所を有し、現在資本金六三〇万円、銘木、建築用各種木材の売買取引、製材業を営む法人である。
(二) 原告は、別紙目録一、二記載の各事業年度分の法人税の確定申告として、被告に対し各法定期限内に右目録一の(二)及び右目録二の(二)各記載のとおりの確定申告をし、かつ申告にかかる法人税額を、各法定期限内に納付した。
ところが、原告は右法人税の確定申告につき被告から、昭和三六年三月三一日付で別紙目録一の(一)記載のとおり各更正決定(以下同三六年更正決定という)を、また、同四〇年一一月三〇日付で別紙目録二の(一)記載のとおり各更正決定(以下同四〇年更正決定という)を受けた。
(三) 原告は右各更正決定につき法所定の不服申立手続を経由して訴外広島国税局長に各審査請求をなしたがいずれも棄却され、その通知は昭和三六年更正決定にかかる分については昭和三八年一月二六日、同四〇年更正決定にかかる分については同四一年五月一三日、それぞれ原告に送還された。
(四) しかしながら被告の昭和三六年更正決定には合理的な理由がないのに所得を推計し、かつ簿外預金対する受取利息を計上した点において、また同四〇年更正決定には昭和三五、三六事業年度(以下年度と略称)には右受取利息金二〇万八、一四〇円、同三七ないし同三九年度に受取利息金一九万〇、七九五円をそれぞれ原告の所得と認定している点においていずれも旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)第九条第一項(昭和二五年法律第七二号による改正後のもの-以下「昭和二五年改正後の旧法」という)に違反しているので、原告は昭和三六年更正決定につき別紙目録一の(二)記載の、同四〇年更正決定につき同目録二の(二)記載の各範囲を越える部分の取消を求めるため本件訴訟に及んだ次第である。
(被告の答弁)
原告の請求原因中(一)ないし(三)の事実を認め、(四)は争う。
(被告の主張)
昭和三八年(行)第五号事件関係
一、被告は原告の昭和三二ないし同三四事業年度(以下係争三事業年度という)の法人税について調査したところ、原告の帳簿には後記二の(一)のとおり売上の隠蔽や架空仕入、経費の計上のほか期末棚卸の過少評価のあることが判明し、これらにより原告が右係争三事業年度の法人所得金額を過少に算出していることが推認される一方、多数口の簿外預金をしていることが明らかとなつた。
そこで被告は原告記帳の期末棚卸、仕入、経費等の計算を否認し、なお被告の調査資料のみによつて原告の所得金額を計算できなかつたので、所得標準率を適用し所得金額を推計したのであつて、別紙目録一、(一)の各更正決定は以下述べるとおり適正である。
二、推計課税要件の存在
(一)帳簿上の売上脱漏、簿外仕入、架空仕入
1 昭和三二年度分
(1) 昭和三二年四月から同年一二月の間、原告の訴外東神木工に対する売上約金四五万円を除外している。
(2) 前記帳簿上原告が訴外岡田智から同三二年九月二六日金二万五、四六八円、同月二七日金四万一、二〇二円、同三三年一月一九日金七、四九八円、同年二月一七日金一万〇、五二五円の素材を仕入れた旨記載されているが、右任入の事実はない。
(3) 同三二年八月六日、原告が訴外芦谷繁延から立木を金二三〇万円で仕入れているにもかかわらず、これを金一八〇万円で仕入れたごとく記載し、その差額金五〇万円を簿外資金で支払つている。
(4) 同三二年四月一三日、金一六万六、八二八円の製品を原告が訴外野谷産業株式会社(以下単に野谷産業という)に売却し、同日、右金額を受領しているにもかかわらずこれを帳簿には計上していない。
(5) 原告が「山下材木店」の架空名義で同年三二年四月一日以降同年一一月一六日までの間、別表一-(一)記載の売上表のとおり七回にわたり素材及び製品を訴外辻井木材株式会社(以下単に辻井木材という)に売渡し別表一-(一)記載の代金受領表のとおり現金または小切手を受領しているにもかかわらずこれを記帳していない。
2 昭和三三年度分
(1) 原告が訴外竹田製材所から昭和三三年四月一四日金九万五、二四〇円、同年五月六日金三万一、二六九円、訴外岡田智から同月一二日金一万七、九二六円、訴外野田誠治郎から同年七月一四日金二九万四、四六一円、また訴外山田潔から同年六月九日以降同年九月二九日まで七回にわたり金四八万五、〇〇〇円いずれも素材を仕入れたごとく記帳しているが、その事実はない。
(2) 原告が同三三年七月二三日、訴外藤原直人から立木を金二八〇円で仕入れているにかかわらずこれを金二三〇万円の仕入と記載し、その差額金五〇万円を簿外資金で支払つている。
(3) 原告が同三三年一二月一三日、訴外萩原央治から立木を金一八八万円で仕入れているにかかわらずこれを金一六八万円の仕入と記載し、その差額金二〇万円を簿外資金で支払つている。
(4) 原告が同三三年八月一日、訴外小川澄から金一四八万円、同三四年三月三〇日金七五万円の立木を仕入れたにもかかわらず、前者については金一〇三万円の仕入、後者については金五五万円の仕入と各記載し、その差額金四五万円と金二〇万円を簿外資金で支払つている。
(5) 原告が「杉山製材林産」なる架空名義で、同三三年六月八日以降同三四年二月二六日までの間別表一-(二)記載のとおり一五回にわたり素材及び製品を辻井木材に売渡し、同三三年七月八日金五二万四、五六七円、同年九月一日金三三万三、九七三円及び同三四年五月一九日金二五万五、九六〇円の各小切手を受領しているにもかかわらず記帳していない。
(6) 原告が「山田林産」なる架空名義で同三三年七月八日以降同年九月八日までの間別表一-(三)記載のとおり七回にわたり素材及び製品を辻井木材に売渡し、同三三年九月一日金二九万六、二〇八円及び同年一一月一三日金一万七、七〇五円の各小切手を受領しながらこれを記帳していない。
3 昭和三四年度分
(1) 原告が「杉本林産」なる架空名義で別表一-(四)記載のとおり素材及び製品を辻井木材に売渡し、同年五月一九日金二八万五、三三六円の小切手、同年八月二七日金五、七九六円の現金、同年九月二八日金二〇万八、七八四円の小切手及び同年一一月二五日金五、三七一円の現金をそれぞれ受領しているにもかかわらずいずれも記帳していない。
(2) 原告が「山下材木店」または「山下木材」なる架空名義で別表一-(五)記載の売上表のとおり合計金一〇六万二、三二二円の素材及び製品を右会社に売渡し別表一-(五)記載の代金受領表のとおり現金または小切手を受領しているのにもかかわらず記帳していない。
(3) 原告が同三五年二月二八日前記芦元繁延から立木を金七五万八、〇〇〇円で仕入れているにかかわらずこれを金五五万八、〇〇〇円の仕入と記載しその差額金二〇万円を簿外資金で支払つている。
(二)簿外預金の存在及びその増加
更に係争三事業年度の各事業年度の期末において別表二-(一)ないし(四)のとおり無記名及び架空名義の定期預金(以下両者あわせて本件簿外預金という)が存在し、右事業年度中に別表二-(五)の「被告主張額」の「偽名」欄中、右該当事事業年度記載のとおり計金六八六万三、一四二円増加しているが、こちらの本件簿外預金は後記のとおりそのすべてが原告(会社)代表者訴外久本盛繁及びその家族のものと認め難く、その相当分が原告から出ていると認めざるを得なかつたからである。
三、所得の推計
(一)所得推計の資料、方法
被告は原告の係争三事業年度の所得を推計するため、まず「製品売上」及び「受取利息」については次のとおり原告の該記帳金額に調査の結果判明した売上脱漏額または本件簿外預金に対する受取利息(ただし昭和三二年度は除く)を加算し、その他は原告の損益計算書、製造原価報告書等の「素材売上」「美容収入」及び「営業外収益、費用」の各科目記帳額をそのまま認めて別表三の(一)ないし(三)記載のとおり「基本収入金額」にそれぞれの所得率を乗じて得た営業利益に「所得率に含まれていない収益」及び「同経費(特別経費)」を加・減して係争三事業年度の各所得金額を認定した。
1 昭和三二年度分
製品売上高金六、三六四万四、四六六円
原告記帳の製品売上高金六、三〇一万五、二〇三円(原告の損益計算書に計上された売上高総計(総売上高から売上値引及び戻り高を控除した金額)から別表三-(一)記載の素材売上高、美容室収入及び山林売上高を差引いた金額)に前記東神木工関係金四五万円、訴外横浜ドラム株式会社(以下横浜ドラムという)関係金一七万九、二六三円の各売上脱漏金額を加算した。
2 昭和三三年度分
(1) 製品売上高金六、四四二万八、〇四七円
原告記帳の製品売上高金六、四一三万五、八六九円(その算出方法は前記1と同じ)に製品売上脱漏額金二六万一、一〇四円及び原告の鳥取工場における副産物(木屑等)の売上脱漏額金三万一、〇七四円を加算した。
(2) 受取利息金二二万三、三三四円
損益計算書に計上されている受取利息及び割引料金一一万一、一九四円に原告の簿外預金に対する受取利息金一一万二、一四〇円を加算した。
3 昭和三四年度分
(1) 製品売上高金七、八六〇万五、八九六円
原告記帳の製品売上高金七、八三二万九、九二七円(その算出方法は前記1と同じ)に昭和三四年九月二六日付の辻井木材に対する売上脱漏額のうち金二〇万八、七八四円及び鳥取工場における副産物(木屑等)の売上脱漏額金六万七、一八五円を加算した。
(2) 受取利息金四二万八、一六五円
損益計算書に計上されている受取利息及び割引料金三〇万一、五二五円に原告の簿外預金に対する受取利息金一二万六、六四〇円を加算した。
(二)所得標準率
係争三事業年度の「製品売上」に適用された各所得率は、広島国税局が毎年業種ごとに誠実に記帳している平均的規模の業者から一〇軒程度を無作為に抽出してその収支の実態を調査し、その結果、上下の極端な事例を除外する等統計学上の適正な操作を加えたうえで算出した標準的な所得率を基礎とし本件に修正を加えた所得率であり、「素材売上」「美容収入」に適用された所得率も右と同様に算出されたものである。
四、法人税額及び加算税額
原告にかかる係争三事業年度の各所得金額に、旧法人税法の定むるところにより法人税額、過少申告加算額、重加算税を算出すると別表四-(一)ないし(三)記載のとおりである。
五、要約
以上のとおり被告が原告にかかる係争三事業年度の法人税につきなした推計課税は、その推計課税要件を充足し、かつ推計の資料、方法も相当で、算出所得金額や法人税額にも誤りはないから原告の被告に対する別紙目録一記載の(一)の更正決定の取消請求は棄却されるべきである。
昭和四一年(行ウ)第二号事件関係
一、原告は前記のとおり係争三事業年度において脱漏所得を作り、本件簿外預金中その相当部分が右所得から出ていることが認められ(昭和三八年(行)第五号事件参照)、昭和三五年度ないし昭和三九年度の五事業年度(以下係争五事業年という)の法人税の申告においては、原告の簿外預金に対する受取利息を右係争各事業年度の益金に計上すべきであるにもかかわらずこれを計上していないので、被告は右申告のその他の否認金額とあわせて別紙目録二記載の(一)の各更正決定をしたのであつて、右更正決定は次に述べるとおり何らの違法事由も存在しない。
二、前記のとおり存在する本件簿外預金がすべて原告代表者久本盛繁(以下代表者個人という)及びその家族に帰属するものでなく、少くともそのうち金三四六万九、〇〇〇円が原告に帰属する。被告がこのように認定したのは次の理由からである。
(一)昭和二九年四月一日、右久本盛繁が原告(会社)を設立した当時、右久本が個人として有していた預金のすべては訴外山陰合同銀行に、原告の株式払込金として積立てられていた金一三〇万円を加えて合計三二三万二、〇六〇円である。そうして久本個人とその家族名義の預金(本名預金)の発生状況は別表二-(五)記載の「被告主張額」の「本名」欄のとおりであるが、本件簿外預金のすべてが仮に久本個人とその家族の預金であつたとすればその発生状況は別表二-(五)記載の「被告主張額」の「偽名」欄のとおりであつて、昭和三五年三月三一日における右合計額は金二、二五五万三、三八二円となる。
(二)ところで久本が昭和二九年四月一日から昭和三五年三月三一日までの間、個人及びその家族の収入として得た総額は別表六-(一)の番号1ないし19のうち「主張額」欄記載のとおり、原告への久本材木店(原告の前身)所有資産の売却分や久本盛繁とその家族の個人所有山林の売却分をすべて含めて金三、二二七万〇、一六四円、支出額の総額は同表-(二)「主張額」欄記載のとおり金三、〇三五万、五、八七七円あり、入出金の差額は金一九一万四、二八七円に過ぎない。従つて、右の金額の範囲内でしか預金が発生するほかないのであつて、前記金二、二五五万三、三八二円との間に金二、〇六三万九、〇九五円の開差がある。
仮に原告主張のとおり簿外売掛金金八五〇万円、簿外預金金三五〇万円が存在するとしてもなお金八六三万九、〇九五円の開差があるのであつて、原告が主張するように代表者とその家族に本件簿外預金のすべてを産むような余裕があつたとは到底認められず原告の主張は合理性がない。
(三)ところで、一方において原告は、別表五記載(ただし、「認定」欄の記載を除く)のとおり係争三事業年度において各事業年度の前記更正所得金額から前記申告所得額を控除した差額だけ所得を脱漏していて(昭和三八年(行)第五号事件参照)、このうち流出先(使途)の明確なものを除くと別表五の五「簿外預金」欄記載の金額のとおりいずれも流出先の不明な脱漏のあることが明らかであつてこれが本件簿外預金の一部の資金源になつているものと認められる。
そうすると係争五事業年度の各期首に少くとも右金三四六万九、〇〇〇円に相当する預金が原告に帰属していたということができる。
三、簿外定期預金に対する受取利息、所得金額、法人税額の計上
係争五事業年度において前記簿外定期預金金三四六万九、〇〇〇円が原告に帰属すると認められたので別表七-(一)ないし(五)記載のとおり各受取利息を計上し、原告の各申告所得金額に加算して右各年度について同表(一)-(五)記載の所得金額及び別表八-(一)ないし(五)記載の法人税額を算出した。
四、要約
以上のとおり被告が原告にかかる係争五事業年度の法人税につき本件簿外預金に対する受取利息を所得金額に含め法人税額を算出したのに誤りはないから、原告の報告に対する別紙目録二(一)の更正決定の取消請求は棄却されるべきである。
(原告の答弁)
昭和三八年(行)第五号事件
一、帳簿上の売上脱漏、簿外仕入、架空仕入
1 昭和三二年度分
被告主張の(1)ないし(4)の事実は認め、同(5)の事実(別表一-(一)参照)は否認する。
2 昭和三三年度分
被告主張の(1)ないし(6)の事実を認める。
3 昭和三四年度分
(1) 被告主張の(1)及び(3)の事実を認める。
(2) 同(2)の事実中、別表一-(五)記載の売上表記載の番号<1>ないし<8>の売上及び同表記載の代金受領表記載の<1><2>の代金受受領の事実を認めるが、その余は否認する。
二、所得推計
(一)所得推計の資料
被告の所得推計の資料(基礎となる科目金額)のうち、別表三-(一)ないし(三)表示の「素材売上」「美容収入」及び「所得率に含まれていない収益(ただし、受取利息を除く)、経費」については該各科目金額を認める。
1 昭和三二年度分
製品売上高金六、三六四万四、四六六円中原告記帳の該当金額金六、三〇一万五、二〇三円は認めるが前記横浜ドラムに対する金一七万九、二六五円の売上脱漏は否認する。
なお、東神木工売上脱漏額金四五万円については後記(原告の主張)昭和三八年(行)第五号事件(一)1のごとく、これに見合う簿外仕入をしている関係上、課税の対象となる益金は零であるから、これと対当額の簿外仕入を売上原価に加算しない限り、これを売上に加算すべきでない。
2 昭和三三年度分
(1) 製品売上高金六、四四二万八、〇四七円中原告記帳の該金額金六、四一三万五、八六九円は認めるが、製品売上脱漏額金二六万一、一〇四円は否認する。
なお、副産物の売上脱漏額金三万一、〇七四円は原告の従業員が原告工場の木屑を盗みこれを売却して得た金であつて原告の売上金でなく、従つて右金額は売上に加算すべきではない。仮にこれを売上に加算するなら他方右同額を原告の盗難損として計上すべきである。
(2) 受取利息金二二万三、三三四円中原告記帳の該金額金一一万一、一九四円は認めるが、簿外預金金一八六万九、〇〇〇円に対する受取利息金一一万二、一四〇円はその元本たる簿外預金が原告の預金でないので、これを加算すべきでない。
3 昭和三四年度分
(1) 製品売上高金七、八六〇万五、八九六円中原告記帳の該金額金七、八三二万九、九二七円は認めるが、辻井木材に対する売上脱漏額金二〇万八、七八四円については前記東神木工の脱漏額におけると、また副産物売上脱漏額金六万七、一八五円については前年度の該売上脱漏額におけると、それぞれ同じ理由により売上に加算すべきでない。
(2) 受取利息金四二万八、一六五円中原告記帳の該金額金三〇万一、五二五円は認めるけれども、簿外預金に対する受取利息金一二万六、六四〇円については、前年度のそれと同じ理由によりこれを売上に加算すべきでない。
(二)所得標準率
原告の所得率は、被告主張・適用の所得率ほど高率でない。
昭和四一年(行ウ)第二号事件
一、被告主張の本件簿外預金中、原告に帰属するものがあることを否認する。
(1) 次の預金は原告はもとより久本盛繁にもその親族にも無関係な預金である。
銀行名 預金者名義 金額 証書番号
別表二-(一)中
<1>神戸銀行筒井支店 木谷秀夫 金一〇万〇、〇〇〇円 五、二四〇
<2>同 木谷春子 同 五、二四一
別表二-(二)中
<3>三井銀行神戸支店 無記名 金七五万〇、〇〇〇円 特は/九九
<4>鳥取銀行智頭支店 同 金一二万四、〇〇〇円 一七
別表二-(三)中
<5>三井銀行神戸支店 無記名 金八五万〇、〇〇〇円 特は/二二八
<6>鳥取銀行智頭支店 同 金二〇万〇、〇〇〇円 二七
別表二-(四)中
<7>三井銀行神戸支店 無記名 金九〇万〇、〇〇〇円 特は六
(2) この預金は、久本盛繁と姻族関係にある各預金名義人(訴外衣笠芳恵は原告代表者の妻の連れ子、同岸本由紀子、同岸本孝子は妻の姪)所有のものである。
別表二-(四)中
<1>神戸銀行筒井支店 衣笠芳恵 金一〇万〇、〇〇〇円 一四、八五八
<2>同 同 同 一四、八五九
<3>同 岸本由紀子 金三〇万〇、〇〇〇円 一四、八六〇
<4>同 岸本孝子 金二三万〇、〇〇〇円 一四、八六一
二、本件簿外預金の帰属について
(一)本件簿外預金中、前記(1)及び(2)の預金を除くその余の預金は原告のものでなく久本盛繁所有のものである。
(二)入金額について
別表六-(一)のうち番号1ないし19の各項目について「主張額」欄記載の金額についての久本個人の入金のあつたことを認める。
(三)出金額について
別表六-(二)のうち番号1ないし6及び9の各項目について「主張額」欄記載の金額の支払のあつたことを認めるが、同7、8、10ないし14の各項目金額の支払のあつたことを否認する。
(原告の主張)
昭和三八年(行)第五号事件
(一)原告の帳簿にはほぼ被告指摘の売上脱漏、簿外仕入等があるけれども、これは原告が山林所有者から立木を仕入するに当り次のとおり二重価格契約をするように強要され、営業を続行するためやむなく簿外仕入(圧縮仕入)をなし、これに必要な資金を捻出するため右と相当額の売上脱漏及び架空仕入をしたためであつて、原告の帳簿上の操作は原告の所得に何らの影響も与えていないし国の課税権も侵害していない。
1 昭和三二年度分
(1) 被告主張の同年度分(3)芦谷繁延からの圧縮仕入額金五〇万円(実際仕入価格から原告記帳額を差引いた額)は、被告主張の同年度分(1)の売上脱漏及び(2)の架空売上計上の方法により合計金五三万四、六九三円を捻出し、その差額は右芦谷繁延との取引の世話料等の簿外仕払金に見合せて操作したものである。
(2) 同(4)野谷産業にかかる売上脱漏はさきに原告が訴外小椋孝一から、昭和三一年一二月一六日、素材金二〇万円、訴外古林英子から、同年同月三一日、立木金一〇万円をそれぞれ買入れ、その代金を支払つたがその仕入を記帳しなかつたので、その穴埋として外に原告が昭和三一年一二月九日、同会社に売渡した製品金一四万九、六七九円とともに操作したものである。
2 昭和三三年度分
被告主張の同年度分(2)ないし(4)藤原直人、萩原央治、小川澄からの圧縮仕入額合計金一三五万円(四件)は被告主張の同年度分(1)の架空仕入計上及び被告主張の昭和三四年度分(1)のうち同年九月二六日付の辻井木材に対する売上脱漏(同3(1)参照)の方法により合計金一一三万二、六八〇円を捻出し、その差額は代表者個人がその手許金から醵出した。
3 昭和三四年度分
被告主張の同年度分(1)のうち同年九月二六日付の辻井木材に対する分についてはさきに説明のとおりである。
同(3)芦谷繁延に対する圧縮額金二〇万円は代表者個人がその手許金から醵出した。
4 昭和三三ないし同三四年度分
前記1ないし3のほか原告は同三三年七月二四日以降同三四年一二月二〇日までの間訴外萩原一男、同小川彦太郎、同芦谷繁延の各山林所有者から一一回にわたり総額金二〇一万円の簿外仕入をなし、右に見合う収入金額を帳簿上から除外するため、被告指摘の簿外売上により合計金一九八万四、九九七円(被告主張昭和三四年度分(1)の簿外代金受領額合計金二九万六、五〇三円(ただし、同三四年九月二八日付金二〇万八、七八四円を控除した額)、同昭和三三年度分(5)の簿外代金受領額合計金一一一万四、五〇九円、同(6)の簿外代金受領額合計金三一万三、九一三円、別表一-(五)の売上表中番号<1>ないし<8>の簿外売上代金受領額合計金二六万〇、〇七二円)を捻出した。
(二)従つて原告の帳簿に被告指摘の売上脱漏、簿外仕入等帳簿上の操作があるとしてもこれは単なる計数調整上のことであつて所得金額と税額との実額には影響のないものであるし、それ以外に原告帳簿に不実、不正の記載はなく、その記載事項は全体として信頼性を備えている。またそれ故、被告は、所得推計の基礎として原告が異論を述べている諸点を除き、原告の売上、営業外収益、費用に関し原告備付帳簿(損益計算書等)の記帳額をそのまま認めているのである。そうすると被告は、原告に異論のある諸点についても十分資料を収集しているのであるから原告帳簿及び被告の資料に基づいて原告の所得を実額計算することは可能であり、かつそれをなすべきである。
しかるに被告は推計課税の方法により原告の所得を認定したものであつて、これには課税の方法を認つた違法がある。
昭和四一年(行ウ)第二号事件
一、原告の脱漏所得からなる簿外定期預金の存在について
係争三事業年度において、原告に被告の主張するような推計所得は存在しなかつたことは前記のとおりであるが、仮にかかる所得があつたとしても右所得が別途利益として、当然に、簿外定期預金となるものではなく被告のこの点に関する主張は取引○○の実態に反している。
二、本件簿外預金について
係争三事業年度中における簿外預金の増加額は、原告の否認金額を控除すると金五二三万三、一四二円(被告主張額は金六八六万三、一四二円)であるところ、右増加額はすべて代表者個人に帰属するものである。
(一)入金額について
被告は、昭和二九年四月一日から同三五年三月三一日までの間における代表者個人及びその家族の入金額を金三、二二七万〇、一六四円として立論している。
しかし代表者個人は別表六-(一)記載番号1ないし19の項目金額のほか、その個人営業時代(昭和二一年八月から同二九年三月三一日まで久本材木店なる名称で製材業を経営)に発生した右営業帳簿外の売掛金、預金等を有していた。
(1) 簿外売掛金(別表六-(一)番号20) 金八五〇万〇、〇〇〇円
訴外平野商店に対する売掛金 金四〇〇万〇、〇〇〇円
同 美濃幸商店に対する売掛金 金二五〇万〇、〇〇〇円
東伸木工に対する売掛金 金五〇万〇、〇〇〇円
同 各所各店に対する売掛金 金一五〇万〇、〇〇〇円
(2) 簿外預金(同23)
訴外神戸銀行他数行に対する簿外預金 金三五〇万〇、〇〇〇円
(3) 実母遺産等(同21)
代表者個人の実母死亡(昭和三四年暮)に伴う
香典及び承継遺産中の現金 金四〇万〇、〇〇〇円
(4) 預金利息(同22)
昭和二九年一月から同三〇年一二月まで 金一二〇万〇、〇〇〇円
昭和三一年一月から同三五年 三月まで 金三二一万〇、一六一円
(5) 以上(1)ないし(4)小計 金一、六八一万〇、一六一円
従つて入金額の合計は金四、九〇八万〇、三二五円となる。
(二)出金額について
(1) 訴外小椋優に対する貸付金(別表六-(二)番号7)については、久本個人が、昭和二八年九月に金八〇万円、同二九年二月に金八〇万円を右小椋に各貸付け、後日利息をも含めて金二〇〇万円の返還を受けたのが真相であつて、同二九年七月に金一二〇万円を貸した事実はないからこれを出金額に含めるのは誤りである。
(2) 訴外橋本義夫に対する貸付金(同8)については代表者個人が昭和二八年六月訴外佐々木善蔵に三筆の山林を担保に金二五〇万円を貸付け、同三〇年三月三一日これに利息二一ケ月分を加えて金三五〇万円の貸借とした後、同年九月橋本義夫が右佐々木善蔵から右担保目的たる山林とともに右金三五〇万円の貸金債務を取得したものであるから、右別表中で出金額に含めるのは誤つている。
(3) 出資額の合計は金三、〇三五万五、八七七円でなく金一、三三六万一、三七九円が正当である。
(三)差引預金可能額
以上の計算の結果、入金の計金四、九〇八万〇、三二五円から出金の計金一、三三六万一、三七九円を差引くと純入金額は金三、五七一万八、九四六円となり、代表者個人及びその家族が金二、二五五万余円の預金する充分な預金源を有していたことは明らかである。
三、簿外定期預金に対する受取利息の計上について
定期預金の増加は所得推計の基礎となるものであるから客観的な実額と解すべきところ、これをも推計を許すということになれば所得計算全体において推計に更に推計を重ねる結果となるが、かかる所得計算方法は被告の一方的、独断的架空の認定に導くものであつて旧法人税法三一条の四、二項に違反しているものといわざるを得ない。
第三、証拠関係
(原告)
甲第一ないし第六号証、第七号証の一ないし三、第八及び第九号証の各一、二、第一〇号証の一ないし九、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし三、第一三ないし第二五号証の各一、二、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八ないし第四八号証、第四九ないし第五三号証の各一、二を提出し、証人井崎安隆、同久本憲明、同小椋優、同橋本義夫、同小椋孝一、同古林英子、同奥沢澄、同萩原一男、同小川澄、同芦谷繁延、同藤林光二の各尋問を求め、原告代表者本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一ないし五、第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし五、第一〇ないし第一二号証はそれぞれ原本の存在及びその成立を認め、第九号証の一、第一三ないし第一五号証、第一六号証の一、第一七ないし第二四号証、第二五号証の一ないし七、第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし五の各成立を認めその余の二号各証(第五号証の二ないし一一、第九号証の二ないし九はそれぞれ原本の存在もともに)成立不和。
(被告)
乙第一号証の一ないし五、第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし五、第四号証の一ないし五、第五号証の一ないし一一、第六ないし第八号証、第九号証の一ないし九、第一〇ないし第一五号証、第一六号証の一、二、第一七ないし第二四号証、第二五号証の一ないし七、第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし五を提出し、証人藤井昌三、同中尾直昭、同陰山健二、同藤田敏雄の各尋問を求め、甲第一ないし第六号証、第一二号証の一ないし三、第一三ないし第二五号証の各一、二、第四四ないし第四八号証、第四九ないし第五三号証の各一、二の各成立を認め、その余の甲号各証(ただし、甲第一〇号証の一の国税局査察課作成部分及び第一一号証の一の郵便局作成部分の成立は認める)の成立は不知。
理由
第一、請求原因中(一)ないし(三)の事実については当事者間に争がない。
第二、昭和三八年(行)第五号事件
被告は、原告の係争三事業年度の法人税についてなした推計課税は、その課税要件を充足し資料、方法も相当であるから、昭和三六年の更正決定は維持されるべきであると主張するので以下順次判断する。
一、推計課税の要件
(一) まず推計課税をなし得る要件について案ずるに、申告に基づく実額課税を原則とする現行税制下において、推計課税の制度はあくまで例外的な課税方法であり、課税当局が推計を誤りしかも納税義務者においてこれを覆すに足る資料を欠くときは実額以上の課税を甘受せざるを得ない結果となるから、青色申告法人につき推計課税をなすことが許容されるためには、納税義務者の備付帳簿、書類が「昭和二五年改正後の旧法」二五条二項の規定(法人税法施行細則(昭和二五年大蔵省令四〇号)-以下「施行細則」という。第三章)に準拠していない(旧法同条八項一号(昭和三二年法律第二八号による改正後のもの))とか、あるいは売上、仕入、製造原価、期末棚卸、現金、預金等に関する取引の全部または一部に隠蔽や仮装があるため、その帳簿書類の記載事項全体についてその真実性を疑うに足る不実の記載がある(右同項三号)ことを要し、一部不実の記載があつても隠蔽、仮装の実態が課税当局または納税義務者によつて明らかにされ、かつ不実記載部分を除く帳簿書類の記載全体が真実性を有すると認められ他にこれら全体の真実性を疑うに足りる不実記載、例えば係争事業年度において納税義務者に関連する簿外預金の発生等の事実がない限り、課税当局は税務調査の結果及び納税義務者の備付帳簿書類によつて実額課税をすべきものと解すべきである。
(1) これを本件についてみるに被告の主張(二(一)1ないし3)(ただし、そのうち山下材木店名義による辻井木材に対する別表一-(一)記載及び同(五)記載の<9>ないし<15>の売上脱漏及び同(一)記載及び同(五)記載の<3>ないし<6>の代金受領の点を除く)は当事者間に争がない。
(2) 証人陰山健二の証言及びこれによつてその原本の存在とともに成立の認められる乙第五号証の二ないし一一によれば原告代表者が辻井木材と架空名義を用いて昭和三四年九月二八日金二〇万八、七八四円の取引をしたことを自ら認めたこと、右取引について授受された受取小切手の筆跡と同一の筆跡の受取小切手が辻井木材及びその取引銀行において発見されたこと、原告が辻井木材との間で山田林産、杉山林産、杉本林産、山下木材、山下材木店なる架空名義を使用して多数の取引をしていたこと、辻井木材は架空名義で取引した仕入先を区別する方法として特定の仕入先には特定の架空名義を使用し、帳簿記入においても右架空名義口座を設けていたところ、本件において原告が否認している前記取引はいずれも原告の前記架空名義で帳簿上記載されていることが認められ、かかる事実に徴し右否認の売上脱漏及びその代金の受領も原告の取引によるものと認められる。
証人藤林光二の証言中には、昭和四〇年八月頃(昭和三八年(行)第五号事件の訴提起後)、原告代表者から本件において原告が否認している前記取引について右はいずれも原告の取引でないから調査してくれとの依頼を受け、担当者が仕入商品と仕入先を記帳した下見帳を調査したところ、右取引はいずれも原木の取引であつたところ、もともと原告とは原木の取引がなかつたこと、また一方、辻井木材においては仕入先、補助元帳の架空名義口座はその葉の肩書番号によつて特定されていたところ、山下木材及び山下材木店名義口座のうち、右申出のあつた取引記載のある中で住所欄の「大原」の文字が抹消された痕跡のある葉(乙第五号証の六)、これと肩書数字を同じくする葉(同号証の八)及びこれと帳簿上の記載が連続している葉(同号証の九)は右「大原」の記載によつて表象されている京都市在住の取引先の架空名義口座であり、同号証の一一は原告以外の取引先の架空名義口座である旨の供述があるけれども、乙第五号証の三ないし五、八及び九の各肩書番号記載に徴し、架空名義口座が番号によつて特定されている旨の右供述は事実に反することが明らかであり、また証人藤林光二がその証言によるも、現在(昭和四一年六月当時)架空名義の利用者が誰であるか解明する資料はないことが認められ、右事実に徴し前記取引が原告の取引でない旨の供述も到底信用できず、また原告代表者本人尋問の結果及びこれによつて成立の認められる甲第四二号証中右供述と同旨の供述及び記載が存在するけれどもこれまた右と同じ理由により信用できず、他にさきの認定を覆すに足る証拠はない。
(3) そして、これら売上脱漏、圧縮仕入、架空仕入の事実に加えて、成立に争のない乙第一七号証、証人藤井昌三の証言によれば原告における昭和三四年度の期末棚卸高には計金一九三万八、八〇〇円の棚卸脱漏があること、被告は原告に対し右諸事実に基づき青色申告法人の承認を取消したが原告はこれに対し異議申立をしなかつたことが認められる。
(二) 原告は、被告指摘の売上脱漏、簿外(圧縮)仕入等の事実が存在するとしても簿外仕入には必ずこれに見合う金額の売上脱漏または架空仕入をなし、原告の収支は差引零で右帳簿上の操作は所得金額及び税額には影響を与えていないから被告は被告の調査資料及び原告備付帳簿書類により実額計算すべきであると主張する。
しかしながら「旧法人税法」が各事業年度の課税所得の計算について、当該法人の「確定した決算(「昭和二五年改正後の旧法」一八条一項)」に基づく当該年度の「総益金から総損金を控除した金額による(同法九条一項)」旨を定めていることから、法は、課税所得の計算方法としていわゆる損益法を採用し、その計算の基礎に「正規の簿記の原則」に従つた継続的記録としての会計帳簿を予定しているものというべきところ、青色申告法人の決算についてはその趣旨を更に明確にし、「法人はその資産、負債及び資本に及ぼす一切の取引につき複式簿記の原則に従い、整然と、かつ明瞭に記録し、その記録に基づき決算を行わなければならない(「施行細則」一二条)」と規定している。かように法が課税所得の計算を「正規の簿記の原則」に従つた会計帳簿の記録に基づくことを要請しているのは、「正規の簿記の原則」に従つて作成された継続的、歴史的記録の所産たる会計帳簿の記載(記録)のみが、企業活動についての信頼し得る情報であり、然らざる会計帳簿の記載(記録)は他に特段の事情のない限り、仮にこれに基づいて算出された課税所得金額が「正規の簿記の原則」に基づいて算出されたそれと一致することがあつたとしても、真実性を有する情報として取扱わない趣旨と解せられるところ、原告の右主張は原告の帳簿書類が「正規の簿記の原則」に従つていないことを自認しており、しかも「正規の簿記の原則」に従わなかつた部分について裏帳簿を提出する等してその真実性を回復する等特段の事情について主張、立証をしていないので、その主張自体失当たるを免れない。
しかのみならず原告代表者本人尋問の結果及び成立に争のない乙第二〇号証中には原告主張の簿外仕入につき原告は売買予約の成立時から売上脱漏を計り、あるいは、ひとまず代表者個人の手持資金で支払い、素材業者から簿外仕入分の領収書をもらつた後その金額に満つるまで売上脱漏または架空仕入をして、原告主張((一)1ないし4)のとおり簿外仕入に見合う金額を捻出してきたのであつて決して右金額を超えて売上脱漏をしていない旨の供述及び記載が存し、原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四三号証にも右の対応関係を示す記載が存在するけれども、成立に争のない乙第一五号証(質問顛末書)及び原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二九ないし第四一号証、原告代表者本人尋問の結果の一部(後に排斥する部分を除く)及び弁論の全趣旨によると、原告は多くの場合、簿外仕入に先立つ約一ないし三月前(その最も早いものでは約五月前)から簿外売上を開始しているが、右簿外売上については別に記録をしていなかつたこと、原告主張の簿外仕入にかかる各領収証記載の名宛人には原告のみならず代表者個人の記載もあること、原告は被告から新たに売上脱漏の指摘があつた後、これに見合う簿外仕入の主張、立証を申出たものの原告主張の簿外仕入と売上脱漏ないし架空仕入は相互に、金額において正確に一致するものではなく、前者と後者との間の不足額は代表者個人が手持資金から支出し、その超過額は同人の息子が取得したりしていることが認められ、これらの事実から原告は、昭和三一ないし同三四年度において、所得脱漏の意思をもつて普段から継続的に売上脱漏、架空仕入等によつて裏(簿外)資金を捻出し、これを簿外仕入にあてていたこと、原告代表者個人及びその家族との経理関係は明確に区別されていない事実が推認され、かかる事実に照らすと原告の主張に副う前記供述及び乙第二〇号証、甲第四三号証の記載内容は到底信用できず、また原告備付の帳簿書類の記載は正確である旨の証人奥沢澄の証言も以上の事実に照らして信用できず、他にさきの認定を覆すに足る原告の在張、立証はない。
そうすると係争三事業年度の原告備付の帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実記載があると認められるので、被告が右係争三事業年度の法人税の計算にあたり推計課税の方法によつたことは相当である。
二、所得推計の資料、方法
(一) 所得推計の資料
別表三-(一)ないし(三)記載の「素材売上」「美容収入」及び「所得率に含まれていない収益(ただし、受取利息を除く)経費」の該科目金額並びに「製品売上高」及び「受取利息」中の原告記帳額については当事者間に争がない。
1 昭和三二年度
成立に争のない乙第一六号証の一及びその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書の一部と推定すべき同号証の二の記載によると、原告が昭和三二年度において前記「製品売上高」の外に横浜ドラムに対する金一七万九、二六三円の売上を脱漏していた事実が認められこれに反する証拠はない。
2 昭和三三年度
(1) 前記乙第一五号証中の原告代表者の供述記載部分(第九項)によると原告は、昭和三三年度において前記「製品売上高」の外に金二六万一、一〇四円の簿外売上をしていた事実が認められ、右認定に反する原告代表者本人尋問の結果は信用できない。
また証人井崎安隆の証言の一部(後に排斥する部分を除く)、同久本憲明及び原告代表者本人尋問の結果によると、原告の鳥取工場における責任者訴外井崎安隆は昭和三三年度において原告の木屑等副産物金三万一、〇七四円を売却して受領した金員を原告の帳簿に記帳することなく同人の生活費や右工場の従業員に飲食させた菓子や酒の代金に費消した事実が認められ、これらの事実によると右木屑等売却代金は一旦益金として原告に帰属した後、井崎安隆がこれを原告簿外の資金とし、秘密裡に原告から自己または右工場従業員に対する特別手当ないしは労務対策費として支出されたものと判断するのが相当であつて、証人井崎安隆の証言中、木屑等は原告会社としてではなく私個人が売却したとの供述は右認定事実に照らし信用できない。
(2) 簿外預金に対する受取利息
被告が昭和三二年度の原告の簿外預金に対する受取利息として主張するところはその原因となるべき簿外預金の存在及び額を別表五の昭和三二年度の五「脱漏所得中簿外預金」欄記載のとおりとして算出したものと考えられるところ、後記第三の二(三)で説明するように右年度中における本件簿外預金の中には原告のそれまでの脱漏所得のうちから発生したものが含まれているであろうことはこれを否定できないが、その額を特定し得る資料がないので、結局、右記載額を同年度における原告の簿外預金として受取利息を算出することは理由ないものといわなければならず、被告主張の受取利息中、原告の認める同年度の受取利息及び割引料金一一万一、一九四円を超える分については他にこれを認め得る証拠がない。
昭和三四年度
(1) 製品売上高
証人久本憲明の証言及び原告代表者本人尋問の結果によると、原告の鳥取工場における責任者訴外久本憲明(原告代表者の長男)は昭和三四年度において原告の木屑等六万七、一八五円を売却して受領した金員を原告帳簿に記載することなく、同人の生計費に支出した事実が認められ、これらの事実によると右木屑等売却代金もまたさきに判断したとおり原告の売上脱漏とみるべきである。
(2) 簿外預金に対する受取利息
被告主張の原告の昭和三四年度における簿外預金に対する受取利息中、原告の認める額を超える部分についても前記2(2)で説明したと同じ理由によつてこれを認め難い。
(二) 原告は、仮に簿外売上であつたとしても、その中にはそれぞれに見合う額の簿外仕入をして右簿外仕入額を売上原価に加算しない限り右売上脱漏額を所得推計の基礎数字に加算すべきでないと主張するけれども、右の各売上脱漏額が簿外仕入額と対応せず、原告記帳の期末棚卸、仕入、経費等記載事項全体について真実性を疑うに足りる不実記載があつたことはさきに認定した(前記一(三)参照)ところである以上、被告が所得率によつて推計課税をなすにあたりその前提として原告の売上総額を算定すべく、そのため前記認定の売上脱漏額を原告記帳の製品売上高に加算すれば足り、売上額に所得率を乗じて所得を推計する方法をとる限り仕入額を考慮する必要はないから原告の所論は到底採用できない。
なお、木屑等の売上代金が認められるとしても、むしろ原告の盗難損として計上すべきであるとの原告の主張は、さきに認定した事実に照らし採用の限りでない。
(三) 所得標準率(所得率)
証人藤田敏雄の証言、これによつて成立の認められる乙第六ないし八号証、証人藤井昌三の証言及び弁論の全趣旨によると、被告は原告の係争三事業年度の所得推計にあたりその推計資料を得るため智頭地区の同業者を調査したが業態が種々で適格な資料を得られなかつたこと、所得標準率の作成については広島国税局において国税庁の通達に従い同局長が毎年一業種について一〇の事例を収集することとし地域的分散をも考慮したうえ同管内の各税務署長に対し業種を選定して割当て、各税務署長はその管内で中規模程度で誠実に記載していると思われる当該業種の業者について調査し、その結果を右局長に報告し、右局長は更にこれを審査し上下の極端な事例を除外した資料から平均値を算出し、更に国税庁において右調査結果に統計学的な検討を加えた後、右局長が所得標準率を決定すること、そのうち所得率は「売上高」から「売上原価」並びに「一般管理費及び販売費」を差引いた所得(営業利益)を売上高で除したもので、右所得率適用の上は当該業者に特別固有な「営業外収益」及び「営業外費用」や「一般管理費及び販売費」中人件費、賃借料、支払利子等を「所得率に含まれない収益または経費」として加・減して適正な所得を算定すること、所得標準率ないし所得率は主として個人(非法人)を対象にして作成するが、所得の算出方法は法人と個人で異らないので、個人の場合と業態に大差がない限り役員報酬とか公租公課等を別途考慮して法人にも適用すること、右のようにして作成された昭和三二ないし三四年分の商工庶業所得標準表によれば、昭和三二年度の所得率は、製材二二・二パーセント、内雑収入率一・二パーセント、素材杭木一五・一パーセント、美容七二パーセント、昭和三三年度のそれは、製材二一・二パーセント、内雑収入率一・二パーセント、素材杭木一五・一パーセント、昭和三四年度のそれは、製材二四パーセント、内雑収入率二パーセント、素材杭木一二・一パーセントであること、原告は智頭地方で上の部に属する製材業者で所得率の適用を妨ぐべき特別事情がなかつたので若干斟酌率(一〇パーセントの範囲内で)を考慮したうえ、原告に所得率を適用した結果、推計所得額は原告の申告所得額を上廻つたこと、以上の事実が認められる。
原告は、原告に適用された各所得率は高率であると主張するところ、原告代表者本人尋問の結果中には原告は他の業者に比して圧縮仕入をする割合が少なかつたのでそれだけ高く仕入れており、右各所得率は高率であるとの供述が存在するけれども、右の供述はそれ自体抽象的で具体性に乏しく考慮に価しないのみでなく、原告が係争三事業年度において多額の圧縮仕入をしていた事実に照らし信用できず他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。右認定事実に徴し被告が原告の係争三事業年度の所得算定のため被告が所得率を適用したことに違法のかどはなく、また右所得率自体、妥当を欠くものとは認められない。
三、所得金額
以上の事実関係によると被告の昭和三六年の各更正決定における所得額の認定については、昭和三二年度における分については違法のかどはなく、昭和三三年度において別途預金の受取利息金一二万六、六四〇円をそれぞれ原告の所得と認定したことはその理由がなく違法であるが、その余の部分の所得額の認定にはいずれも違法のかどはない。そうだとすると被告が原告に対してなした昭和三六年の各更正決定のうち、昭和三三年度の所得金額二四四万二、九二三円から一一万二、一四〇円を控除して金一〇〇円未満を切捨てた残金二三三万〇、七〇〇円を所得金額として算出した法人税額及び昭和三四年度の所得金四〇八万八、七六六円から金一二万六、六四〇円を控除して金一〇〇円未満を切捨てた残金三九六万二、一〇〇円を所得金額として算出した法人税額をそれぞれ超える部分は取消を免れないが、昭和三三年度及び昭和三四年度のその余の部分及び昭和三二年度に関する課税処分はいずれも取消の理由がない。
第三、昭和四一年(行ウ)第二号事件(昭和三八年(行)第五号事件中簿外預金に対する受取利息関係を含む)
被告は、原告が係争五事業年度の法人税の申告において原告の簿外預金に対する受取利息を益金に計上していなかつたのでその他の否認金額とあわせて昭和四〇年の各更正決定をしたと主張するので、以下順次判断する。
一、本件簿外預金の存在、増加について
本件簿外預金は、そのうちの次の預金を除き、それが原告に帰属するか代表者個人に帰属するかは別として原告に関係のある預金であることは当事者間に争がない。
(1) 本件簿外預金中原告の答弁(1)の<1>ないし<7>記載の預金
右預金については、本件全証拠によるもこれを原告に関係のある預金と認めるに足りる証拠はない。
(2) 別表二-(四)の簿外預金中衣笠芳恵、岸本由紀子、同孝子名義の各預金(原告の答弁(2)の<1>ないし<4>)
当事者間に争のない乙第一八、第二〇号証(いずれも質問顛末書)、証人藤井昌三の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、右の各預金は原告ないしは代表者個人に帰属するものと認められる。ところで原告代表者本人尋問の結果中、右の各預金はそれぞれその名義人である衣笠芳恵(代表者個人の妻の連れ子)、岸本由紀子、同孝子(両者とも妻の弟の子)所有のもので、原告はもちろん代表者個人にも関係のない預金であるとの供述が存在するけれども、一方、右名義の各預金は妻が持参した架空名義の預金であると思うとか、また衣笠芳恵らは昭和三〇年以降いずれも鳥取県八頭郡内に住んでいて神戸銀行筒井支店のある神戸市葺合区筒井町付近に住んでいない旨の供述に照らして前記供述は信用できず、他にさきの認定を覆すに足る証拠はない。
そうだとすると昭和三一ないし同三四年度の期末において原告に関連する別表二-(六)のうち「認定額」の「偽名(架空無記名)」欄の昭和三二年三月三一日以降の記載の各金額の簿外預金が存在していたことになるところ、そのうち継続切替分を除外するとしても別表二-(五)のうち「認定額」の「偽名」欄の昭和三二年度以降昭和三四年度の記載のとおり増加発生していることが計数上明らかである。
二、原告の脱漏所得からなる本件簿外預金の有無について
(一) 原告が係争三事業年度において別表五の三「脱漏所得」「認定」欄記載のとおり所得を脱漏していたことはさきに認定した(昭和三八年(行)第五号事件関係参照)ところであるが、前記乙第一六号証の一、二、第一七号証、成立に争のない甲第八号証の一及び弁論の全趣旨を総合すると、少なくとも別表五の四「脱漏所得額中流出額計」欄記載の金額が脱漏所得額から流出した事実が認められる。
(二) 被告は、前記一認定の昭和三三年度以降の簿外預金のうち別表五の五「簿外預金」「被告主張」欄記載の金額が少なくとも原告の係争三事業年度の脱漏所得からなる簿外預金の額であると主張するのに対し、原告は簿外預金はすべて代表者個人の預金であると反論する。そこで右簿外預金の帰属を判断するため代表者個人及び同家族の入出金状況を原告(会社)設立時から昭和三二年三月三一日まで(以下昭和三一年度以前という)、昭和三一年度、同三二年度、同三三年度、同三四年度の各期間に区別して検討するに、別表六-(一)の番号1ないし19、同表(二)の番号1ないし6及び9の各項目について「主張額」欄記載の金額について代表者個人の入出金のあつたことは当事者間に争なく、次に記載する理由、証拠によれば右争のない項目以外の入出金の存否及び各入出金の事業年度別入出金額は同表(一)、(二)の「項目」、「事業年度別認定額」欄記載のとおりであることが認められ右認定に反する証拠はない。
(1) 入金の部
別表六-(一)の番号1ないし6(以下単に番号のみで表示する)立木素材代金外
原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の二、四ないし八、成立に争のない甲第一二号証の二、三、第一三ないし第一八号証の各二及び弁論の全趣旨。
7ないし11 現金外
売掛金及び受取手形の性質からして遅くとも昭和三〇年度以前に回収したことが推認できる。
12 受取賃借料
原告代表者本人尋問の結果及び前記甲第一〇号証の四ないし七(昭和三一年度中に金六万円)。
13 給料
原告代表者本人尋問の結果及び甲第一〇号証の四ないし八。
14 配当
原告代表者本人尋問の結果及び成立に争のない甲第一〇号証の九。
15 役員賞与
原告代表者本人尋問の結果及び甲第一〇号証の九。
16 山林立木代
原告代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の三。
17 小椋貸付金回収分
原本の存在、成立に争のない乙第一二号証、証人小椋優の証言。
18 橋本貸付金回収分
証人橋本義夫の証言及びこれにより成立の認められる甲第一一号証の二、成立に争のない乙第二二号証を総合すると代表者個人は橋本義夫から山林買戻代金として原告設立以降昭和三二年三月三一日までの間に金五一〇円(うち金二八〇万円を昭和三一年度中に)を受領したことが認められる。右認定に反する原告本人尋問の結果及び乙第一八号証は容易に信用できない。
19 山林立木代
原告代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第二七号証の一、二。
20 簿外売掛金
甲第一〇号証の一、乙第二〇号証及び原告代表者本人尋問の結果中には、代表者個人が、個人営業時代の簿外売掛金等の回収として、原告設立後昭和三四年頃までの間に計八五〇万円、うち金五百数十万円を銀行を通じ、残金三〇〇万円余を直接取立てて受領した旨の供述や右供述の一部に近い記載があるが、右供述及び記載は右入金時期及び金額について裏付となる資料が伴わないものであつて容易に信じられない。しかしながら甲第二一、二二、二五号証の各一、二及び成立に争のない甲第一九、二〇、二三、二四号証の各一、二、原告代表者本人尋問の結果(前記排斥した部分を除く)によれば代表者個人は、原告設立時から昭和三〇年四月までの間にその取引銀行を通じて金五三〇万四、〇〇八円の売掛金を回収した事実が認められるところ、この中には前記争のない番号10の売掛金(簿上)、11の受取手形(売掛金の支払方法として受取つたものと推認することができる)による入金が含まれているものと考えられるので、これを控除した残額金一七〇万八、三八八円が右期間に簿外売掛金の回収として入金になつたものということができる。成立に争のない乙第一三号証、公文書であることにより成立の認められる乙第四号証の五は右認定を覆すに足るものではない。
21 香典
原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨。
22 預金利息
原告は、昭和二九年一月から昭和三〇年一二月までの間に代表者個人(この項目に限り家族の分を含む)には金一二〇万円の預金利息収入があつたと主張し、原告代表者本人尋問の結果及び甲第二八号証中には右主張に副う供述及び記載があるが成立に争のない乙第一四号証によれば代表者個人の昭和二九年三月三一日現在の実名預金は金一九三万二、〇六〇円であることが認められ(その後、昭和三一年三月末日までの間にこれが増加したことを認め得る証拠はない)、代表者個人の同日現在の偽名預金を原告主張の金三五〇万円と仮定しても(その後、昭和三一年三月末日までの間に右額以上になつたことを認め得る証拠はない)、昭和二九年四月一日以降昭和三〇年一二月までの間における代表者個人の実名預金及び偽名預金の利息額(年六分の割合で複利計算の方法をとるとしても)は計金六七万一、四〇三円(うち実名預金分利息金二三万八、八〇三円、偽名預金分利息金四三万二、六〇〇円)となることが計数上明らかであるから、前記供述及び記載中右金額を越える部分は信用できず、成立に争ない乙第二五号証の三、四中の利息収入に関する部分のみをもつてしても原告の右主張を認めることはできない。他にこれを認める証拠はない。
次に昭和三一年一月以降の代表者個人の利息収入の点について考えてみるに、弁論の全趣旨によつて代表者個人の昭和三〇年ないし昭和三四年度の各期末における実名預金額は別表二-(六)「認定額」の「本名」欄のうち右該当年度記載のとおりであること、昭和三〇年度期末の原告に関連する偽名預金額は同表「認定額」の「偽名(架空無記名)」欄のうち右該当年度記載のとおりであること(なお、昭和三一年ないし昭和三四年度期末における分については前記一認定のとおり)が認められるので、これによつて各年度ごとの利息(年六分の割合による)を算定すれば、昭和三一年度中金三〇万六、一二〇円、昭和三二年度中金八〇万五、四二〇円、昭和三三年度中金一〇〇万六、五一七円、昭和三四年度中金一一三万〇、三一三円(以上合計金三二四万八、三七〇円)なることが計数上明らかである。原告本人尋問の結果及びこれによつて成立の認められる甲第二八号証によると昭和三一年一月から昭和三五年三月までの代表者個人の受取利息収入が金三二一万〇、一六一円である旨の供述及び記載があるが、右算定を覆すに足るものとは考えられない。また成立に争のない乙第二五号証の五ないし七、乙第二〇号証の記載はこれを裏付ける他の証拠がなくこれのみにては右認定を覆すことはできない。他に右認定に反する証拠はない。
(以上のとおり、昭和二九年四月一日以降昭和三二年三月三一日までの受取利息額は計金九七万七、五二三円となることが計数上明らかである。)
23 簿外預金
原告は、原告設立当時において代表者個人の簿外預金三五〇万円を有していた旨主張するが、本件においては後に認定するように本件簿外預金の帰属を判断するために昭和三二年四月一日以降昭和三五年三月三一日までの間における各事業年度毎に本件簿外預金の増加額と代表者個人の入出金差額、原告の脱漏所得とを比較対象して右増加分について原告の脱漏所得が入りこむ余地があるかどうかを検討しているのでその限りにおいては原告設立当時における代表者個人の簿外預金高を問題とする余地はない。そうして原告設立後昭和三二年三月三一日までの間においては後に述べるように原告の右期間の脱漏所得が判明しない以上、右脱漏所得が本件簿外預金に入りこんだか否かを判定し得ないので、結局、この点においても原告設立当時における代表者個人の簿外預金高を問題とする余地はない。もつとも右簿外預金から生ずる受取利息については前記各事業年度ごとに発生して代表者個人の収入となり、本件簿外預金の帰属を判定する上において前記比較対象の計算中に入つてくることはいうまでもないが、この点においては前記22預金利息の算定において、昭和二九年四月一日以降昭和三〇年一二月三一日までの間、原告の主張する金三五〇万円を基礎として計算したことは前記のとおりである。
(2) 出金の部
1ないし5 借入金外
前記乙第一四号証の「支払の部」の記載並びに原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨(代表者個人は昭和二九年四月一日から同三〇年一〇月までの間、借入金二七〇万円(訴外小林美津子、その他の分)、支払手形金三六万円(いすず自動車代)、買掛金四〇〇万三、一五三円(ただし、興雲寺山及び豊並村山林購入費合計金一七〇万円を除く)、前払金五〇万円(平野商店金一〇万円、西垣林業金四〇万円)、その他給料、出張旅費等金二四万三、三五八円、合計金七九二万六、五一一円を支払つた事実が認められる)、乙第四号証の五、弁論の全趣旨(代表者個人は遅くとも昭和三〇年度以前において、別表六-(二)の項目1ないし5の各金額を支払)。
(右認定に反する乙第二〇号証中、山林の仕入はほとんど現金決済であるし、また素材仕入は前渡金が多くそれを簿外の預金や売掛金で支払つていたので帳簿上は買掛金、未払金は残つているように記載されているけれども、ほとんどないのが真相である旨の記載は乙第一四号証に照らして信用できない。)
6 株式払込金
乙第二〇号証(項目一四)及び原告代表者本人尋問の結果。
7 小椋分貸付金
原本の存在及び成立に争のない乙第一二号証。
(原告代表者本人尋問の結果中には、乙第一二号証の記載文言にもかかわらず代表者個人が訴外小椋優に対しアパート建築資金として昭和二八年九月及び同二九年二月それぞれ金八〇万円を貸渡したが、右金員交付後の同二九年七月一二日、昭和二八年貸付分について利息をも含めて金一二〇万円を返還することとなし借用証(乙第一二号証)に昭和二九年七月一五日金一二〇万円を借受けた旨の記載をなしたのであるとの供述が存在し、証人小椋優の証言中にも金員授受の日及びその金額につき右と同旨の供述が存在するけれどもこのように金員授受の日から五ケ月も後に、しかも借受の日や借受金額の異る借用証書を作成しなければならなかつた事情について合理的な説明のない点において前記の供述はいずれも信用できず他にさきの認定を覆すに足る証拠はない。)
8 橋本分貸付金
原本の存在並びに成立とも争のない乙第一〇、一一号証、成立に争のない乙第二一、第二二ないし第二四号証、証人橋本義夫の証言及び原告代表者本人尋問の結果(後に排斥する部分を除く)。
(原告代表者本人尋問の結果の一部中、代表者個人は昭和二八年末頃、訴外佐々木善蔵に金五〇万円を貸渡していたのに、更に昭和三〇年三月末頃、金三〇〇万円を貸増して同人から金一六五万円の領収証(乙第一〇号証)、金一八五万円の領収証(乙第一一号証)の交付を受けた旨の供述及び乙第一八号証中の同旨記載は、前記第二一号証中に代表者個人からは昭和三〇年頃一、二回に金二〇〇万円か三〇〇万円を借りたほかはない旨の供述記載部分が存在することに照らして信用できない。)
9 貸付金
乙第二〇号証(項目一四)、乙第二五号証の六、七、成立に争ない乙第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし三。
10 株式購入費
乙第一九号証(株券印鑑の確認書)、第二〇号証(項目一三)、第二五号証の三、五ないし七及び原告代表者本人尋問の結果。
11 山林購入費
乙第一三、一四号証及び原告代表者本人尋問の結果。
12 借入金返済額
さきに代表者個人が小林美津子他に対する借入金合計金二七〇万円を返済したと認定した(項目1参照)以外に更に同人らに同額の借入金を返済したとの事実を認めるに足る証拠はない。
13 諸税納付額
成立に争のない乙第二五号証の一並びにその方式及び趣旨により国税局査察官が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき同号証の二及び原告代表者本人尋問の結果。
14 生活費
乙第一八号証及び第二〇号証(前者は項目一九、後者は項目九)を総合すると、代表者個人は田(四反)、畑(一反)を所有していて農産物を自給できたけれども、なお同人及びその家族(妻と子供、息子夫婦と孫一人計五人)のために少なくとも昭和二九年度以降同三四年度まで年間金二〇万円の生活費を要したと判断するのが相当である。
(原告代表者本人尋問の結果中には供米代金や山林間伐による収入等で十分生活ができ、原告からの給料は費消されずそのまま残つていつた旨の供述が存在するけれども、右の供述は直接代表者個人一家の生活費の多寡についそ言及するものではないので考慮に価しないばかりでなく、供述それ自体具体性に乏しく信用できず、他にさきの認定を覆すに足る証拠はない。)
15 その他
以上1ないし14の認定事実及び乙第一四号証(ことに支出の部の記載)。
(三) 簿外預金の有無について
以上認定の代表者個人及び同家族の入出金状況に基づき代表者個人の資金源による預金可能額を検討すると別表九記載のとおり、昭和三二年度中の代表者個人の資金源による「純増加額」(入金額から出金額を差引いた金額)は金四二二万三、三一八円で、これが別表二-(五)のうち「認定額」欄記載の同年度中の本名預金及び原告に関連する前記一の偽名預金増加額(以下単に「預金増加額」という)金三三五万一、六〇九円の資金源となつても、なお金八七万一、七〇九円の剰余のあることが、また同三三年度中の「純増加額」は金二三一万一、九一七円で、これが同年度中の「預金増加額」金二〇六万三、二七五円の資金源となつてもなお金二四万八、六四二円の剰余があることが明らかである。しかしながら同三四年度中の「純増加額」は金二二二万九、三五三円で、これが同年度中の「預金増加額」の資金源となつてもなお右以外の資金源からなる金五八万五、四六七円の「預金増加額」があることになるが、さきに認定した同三二、三三年度の「純増加額」から「預金増加額」を差引いた右剰余金が預金以外の形で維持され同三四年中に預金資金となつて同年度の「預金増加額」の一部になり得ることも考えられる。
そうすると原告には係争三事業年度中、さきに認定した各脱漏所得金額が存在し、このうち前記流出額を差引いた各残額が別表九記載の昭和三二、三三、三四年度中の簿外(偽名)「預金増加額」になり得たことは推論できないわけではないけれども、前記事実によると係争三事業年度中における簿外(偽名)「預金増加額」は、すべて代表者個人及び同家族の資金源からなり得たことも十分推認することができることになるので、前記流出額控除後の脱漏所得額が算出され得るとしても、そのうちいかなる範囲の金額が右の各「預金増加額」となつたか明らかに認め得る証拠のない本件にあつては、結局、昭和三三年度以降の簿外(偽名)預金のうち原告に帰属すべきものというべき額を特定することはできない。
もつとも、係争五事業年度の各期首における原告帰属の簿外預金の有無、範囲を判断するためには単に係争三事業年度内の原告の脱漏所得と代表者個人の収入源を比較したのみでは足らないことはいうまでもなく、原告が設立された昭和二九年四月一日以降の脱漏所得と代表者個人の収入源との比較をもしなければならないところである。そこで別表九記載の各期間ないし各年度別の「入出金額」及び「預金増加額」を子細に検討すると、代表者個人の昭和三一年度の「純増加額」は金二一五万〇、六六〇円にとどまり、これがすべて同年度の「預金増加額」の資金源となつたとしても、なお同年度中にその資金源の不明な金六一七万一、〇一八円の「預金増加額」(同年度中の「純増加額」がすべて、まず代表者個人の本名預金にあてられ、しかる後簿外預金に充当されたと考えると、資金源の不明な金六一七万一、〇一八円の「簿外預金増加額」)が発生したものということができるところ、原告代表者本人尋問の結果中には簿外預金はそのほとんどを切替え継続していたとの供述があるので、右の資金源不明の預金額が、別表二-(六)「認定額」の「偽名(架空無記名)」欄記載の金額の一部となつて昭和三二年度以降同三九年度末まで存在していたということも一応推認できないわけではないけれども、被告は、昭和三一年度において原告にいくばくの脱漏所得額が発生したか及びその脱漏所得中いくばくが右の資金源不明の預金となつたかの点について何らの主張・立証をしていない関係上、右の資金源不明の預金が直ちに、別表二-(六)「認定額」欄記載の昭和三二年度末以降の簿外預金中に原告の脱漏所得からなる前記各金額(昭和三三年度以降は金一八六万九、〇〇〇円同三四年度以降は金二〇六万九、〇〇〇円、同三五年度以降同三九年度までは金三四六万九、〇〇円)の簿外預金が存在したものと認めることはできず、他に被告の主張を認めるに足る証拠はない。更に別表九の昭和二九年一月以降昭和三一年三月三一日までの欄について検討するも右に述べたのと同様のことがいえる。
そうすると、係争五事業年度において原告に金三四六万九、〇〇〇円の元本債権(簿外預金)が存在したことを前提として右係争事業年度において別表七-(一)ないし(五)の各「受取利息」欄記載のとおり原告に利息の収益が発生したとの各主張は認められないこととなる。
三、所得金額
以上の事実関係によると、被告の昭和四〇年の各更正決定については、同三五、三六年度において別途預金に対する受取利息金二〇万八、一四〇円を、同三七ないし同三九各年度において右受取利息金一九万〇、七九五円をそれぞれ原告の所得と認定したこと及び右の各所得の存在を前提として別表七-(一)ないし(五)記載の各金額の未払事業税、価格変動準備金、寄付金を減・加算したことはその限りにおいて理由がなく違法である。
そうだとすると被告が原告に対してなした昭和四〇年の各更正決定のうち、別紙目録二の(一)「所得金額」欄記載の各金額を所得金額として各事業年度ごとに算出した法人税額を超える部分は取消を免れない。
第四、結論
以上説示したとおり昭和三八年(行)第五号事件関係の原告の請求は、昭和三六年の各更正決定について、昭和三三年度分法人税額のうち所得額を金二三三万〇、七〇〇円として算出した額を超える部分、同三四年度分法人税額のうち所得額を金三九六万二、一〇〇円として算出した額を超える部分の取消を求める限度において理由があるので右請求を右の限度で認容し、その余の部分(昭和三二年度分を含む)は失当であるからこれを棄却することとし、次に、昭和四一年(行ウ)第二号事件関係の原告の請求は、昭和四〇年の各更正決定について原告の昭和三五ないし昭和三九年度分法人税額のうち各年度の所得額を別紙目録二の(二)「申告にかかる所得金額」欄記載の各金額として算出した額(いずれも従前期に加算された受取利息額の減算に伴う未払事業税、価格標動準備金、寄付金の変動をも加減する)を超える部分の取消を求めるものであるから、右請求を認容することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法九二条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中村撓三 裁判官 小北陽三 裁判官 中川隆司)
目録一
<省略>
目録二
<省略>
別表一-(一)
山下材木店名義による売上及び代金受領明細表
<省略>
別表一-(二)
杉山製材林産名義分売上表
<省略>
別表一-(三)
山田林産名義分売上表
<省略>
別表一-(四)
杉本林産名義分売上表
<省略>
別表一-(五)
山下材木店名義による売上及び代金受領明細表
<省略>
別表二-(一) 無記名及び架空名義定期預金明細表
昭和三二年三月三一日現在
<省略>
別表二-(二)
昭和三三年三月三一日現在
<省略>
<省略>
別表二-(三)
昭和三四年三月三一日現在
<省略>
別表二-(四)
昭和三五年三月三一日現在
<省略>
<省略>
別表二-(五)
久本盛繁及び原告に関連する預金の事業年度別発生状況表
<省略>
別表二-(六)
久本盛繁及び原告に関連する預金の事業年度末現在高表
<省略>
別表三-(一)
昭和三二年度分法人所得金額三、二五六、一〇〇円の算出根拠
<省略>
別表三-(二)
昭和三三年度分法人所得金額二、四四二、九〇〇円の算出根拠
<省略>
別表三-(三)
昭和三四年度分法人所得金額四、〇八八、七〇〇円の算出根拠
<省略>
別表四-(一)
昭和三二年度分法人税額および重加算税額の算出根拠
<省略>
別表四-(二)
昭和三三年度分法人税額および加算税額の算出根拠
<省略>
別表四-(三)
昭和三四年度分法人税額および加算税額の算出根拠
<省略>
別表五
簿外預金の算定根拠
<省略>
別表六-(一)
久本盛繁及び同家族の入金計算表
<省略>
別表六-(二)
久本盛繁及び同家族出金計算表
<省略>
別表七-(一)
昭和三五年度分法人所得の計算明細表
<省略>
別表七-(二)
昭和三六年度分法人所得の計算明細表
<省略>
別表七-(三)
昭和三七年度分法人所得の計算明細表
<省略>
別表七-(四)
昭和三八年度分法人所得の計算明細表
<省略>
別表七-(五)
昭和三九年度分法人所得の計算明細表
<省略>
別表八-(一)
昭和三五年度分法人税額の算出根拠
<省略>
別表八-(二)
昭和三六年度分法人税額の算出根拠
<省略>
<省略>
別表八-(三)
昭和三七年度分法人税額の算出根拠
<省略>
別表八-(四)
昭和三八年度分法人税額の算出根拠
<省略>
別表八-(五)
昭和三九年度分法人税額の算出根拠
<省略>
別表九
久本盛繁の預金可能額検討表
<省略>